本記事では、イノベーションの全体論とキャズム・顧客開発モデルのポイントを整理します。
今回紹介する内容は以下の書籍を参考にしています。
- キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論
- アントレプレナーの教科書
『アントレプレナーの教科書』は邦題で「顧客開発モデル」といわれるプロセスを提唱しています。
また、本記事のタイトルに「スタンフォードの課題図書」と言及しましたが、『アントレプレナーの教科書』中に以下のような記述があります。
本書は(中略)スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校の技術経営プログラムや経営大学院などでは前述の『キャズム』とともに課題図書となっている。
そのため、今回紹介する書籍を読めば、スタンフォードやUCバークレーのMBA生が学ぶ理論を日本語で勉強ができるということです!
今回の記事では、キャズム・顧客開発モデルについて重要なポイントを整理させていただき、これから深く勉強をされる方の導入となるような情報が提供できればと考えています。
それでは参りましょう。
なお、本記事はあくまで個人でまとめているブログです。
そのため、書籍の内容すべてはカバーできませんし、ざっくりとしたまとめになってしまうことに関してはご容赦いただけますと幸いです。
記事中の間違いやご意見などがあれば、是非メッセージでご連絡いただければと思います。
イノベーション論の全体像と、紹介する書籍の位置づけ
今回紹介する書籍は、ジャンルとしてはイノベーション論に関連する書籍です。そこで、まずはイノベーション論の全体像を簡単にご紹介します。
イノベーション論の全体像はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『オープンイノベーション白書 第三版』に詳しく記載があります。
その中でも、次の図で非常にキレイにまとめられています。
この図を見ると、近現代のイノベーション論は、シュンペーターによるイノベーションの定義から始まっていることがわかります。
そして、この手の分野に興味がある方なら一度は聞いたことがあるであろう『イノベーションのジレンマ』や『両利きの経営』なども最近のイノベーション論に含まれています。
さて、今回紹介する書籍である『キャズム』は図中の「③イノベーションの普及プロセス」に、『アントレプレナーの教科書』は図中の「⑧スタートアップ/デザイナーの手法を用いたイノベーション」に含まれており、一見別物のように思えます。
しかし、『アントレプレナーの教科書』の著者であるスティーブン・ブランク先生は同書中、何度もキャズムに対して言及をし、関連付けて説明されています。
そのため、本記事では『キャズム』と『アントレプレナーの教科書』を併せて紹介させていただくことにしました。
今回紹介する書籍のまとめ
今回紹介する2つの書籍の関連性を図示します。
現時点で用語等が不明な場合には、次の目次「各書籍の紹介」をご覧いただいた後に、戻って見ていただければ幸いです。
- キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論:
キャズム理論 - アントレプレナーの教科書:
顧客開発モデル
「キャズム」と「顧客開発モデル」はどちらもプロセスを示すものです。
キャズム:
商品の普及プロセス
顧客開発モデル:
個社の事業拡大プロセス
「キャズム」にはイノベーターからラガードまで、5種類の消費者層があります。左のイノベーターから右のラガードへと普及します。
まずはざっくり、「技術への関心度が高い×リスク許容度が高い」方がイノベーター、その逆がラガードと考えてください。
そして、「キャズム」は「アーリー・アダプター」と「アーリー・マジョリティ」の間にある、乗り越えるべき(ものすごい高い)壁のようなものです。
商品をバズらせるためには、いかにこのキャズムを超えるかが重要となるですが、その具体論を示したのが『顧客開発モデル』です。
具体的に、顧客開発モデルにおける「顧客実証」→「顧客開拓」の部分が、キャズムの乗り越えに該当します。
図中にリーン・スタートアップとデザイン思考という文言がありますが、別の記事で詳細は取り上げようと思います。
リーン・スタートアップは「顧客開発モデル」を実践していく中で、エリック・リース氏により完成させられたマネジメント論です。そしてリーン・スタートアップとよく対比に出されるのがデザイン思考です。
厳密には異なることは承知のうえであえて両者の違いを単純化するならば、「0→1」を生み出すのがデザイン思考、「1→100」のマネジメントがリーン・スタートアップという区別がわかりやすいと思います。
各書籍の紹介
ごく簡単ではありますが、各書籍の特徴やポイントを紹介いたします。
キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論
「キャズム理論」はジェフリー・ムーアにより1991年に提唱された理論であり、テクノロジー・ライフサイクルとされる下の図が有名です。
この図は技術系の商品が市場に流通する過程で、どのような消費者層から広がっていくかを示したものであり、左のイノベーターから右のラガードへと普及します。
キャズム理論では、イノベーターは技術そのものに関心が高い技術オタクな人種とされています。その一方でビジネスにはうとい部分があります。そこで登場するのがアーリー・アダプターです。
どのようにアーリー・アダプター(図中では「初期採用者」)へリーチするかというと、最初はイノベーター自身が口コミなどで商品を紹介していくことが初期のプロセスであると記載されています。
そして、題名にもなっている「キャズム」はアーリー・アダプター(初期採用者)とアーリー・マジョリティ(初期多数派)の間に存在するギャップの事を指しています。
要点としては、「アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティでは、価値を感じるポイントが全く異なるため、リーチの仕方もガラッと変える必要がある」ということです。
具体的に、アーリー・アダプターは多少リスクをとっても価値がありそうだと判断すれば積極的に商品を購入するのに対し、アーリー・マジョリティは使うメリットが明確だったり信頼性がないと使用しないといった特徴を有する層です。
そのため、テクノロジー自体に価値が置かれていたイノベーターやアーリー・アダプター相手の経験や実績を、そのままアーリー・マジョリティに対して使うことはできないということです。
なお、アーリー・マジョリティとレイト・マジョリティが一般にボリュームゾーンとされており、キャズムを越えないと爆発的なヒットとはならないことを示しています。
そして、このキャズムを超えて発展するために「会社設立後は学習と発見のプロセスに注力して事業拡大を狙おう」と提唱したのが、次に紹介するスティーブン・ブランク氏の「顧客開発モデル」です。
アントレプレナーの教科書
『アントレプレナーの教科書』は英語では『Four Steps to the Epiphany』というタイトルです。Epiphanyは「神・本質の出現」という意味らしく、事業が開花することを暗に意味していると私はとらえています。
そして、Epiphanyに向けたFour Stepsこそが顧客開発モデルの4ステップです。下の図が有名です。
なお、本図はあくまで顧客開発モデルであり、製品開発プロセスは別で進める必要があります。
このうち、「顧客実証」→「顧客開拓」の部分が、前に紹介した「キャズム」に対応しています。
なお、本書ではキャズム以前の初期市場での登場人物を「テックマニア」や「ビジョナリー」と呼んでいますが、キャズムで言うところの「イノベーター」や「アーリー・アダプター」に該当します。
そしてこの図の大きな特徴は、ピボットと呼ばれる左向きの矢印が「顧客実証」から「顧客発見」に伸びていることです。
つまり、「顧客発見」「顧客実証」のプロセスを繰り返し行うことで、初めてメインストリーム市場に進出できる(つまりキャズムを越えられる)ということです。
簡単に、4つのプロセスを(ざっくりと)説明すると次のようになります。
顧客発見:
製品を使ってくれる最初の少数のユーザーを見つけ、たくさんのフィードバックをもらい改善する。
顧客実証:
どの顧客・市場に自らの製品が売り込めるかどうかを把握し、実際に顧客に購入してもらい、評価を得る。
顧客開拓:
顧客発見・顧客実証での学習に基づき営業をする。
組織構築:
営業・マーケティング・事業開発に担当の責任者を配置し、組織化する。
また、本書が紹介される時はどうしても「顧客開発モデル」ばかりが注目されがちですが、書籍中で繰り返し述べられているのは「自社商品の市場タイプの見極めの重要性」です。
本書では市場タイプは4つに分けられ、既存市場か新規市場か、そして既存市場なら参入方法として①低コスト、②ニッチ戦略、③機能改善のどれか、という分類になっています。
市場タイプによって各プロセスで実施すべきことは異なるため、自分が展開するビジネスがどの市場に該当するかはまずしっかり見極める必要があります。
おわりに
ここまで読んでいいただきありがとうございました。より新しく具体的な方法として、リーン・スタートアップやデザイン思考というものもあります。それらは別記事で紹介させていただけたらと思います。
さて、本記事の価値は「イノベーション論をわかりやすく理解していただく」ことだと私は考えています。
既にキャズムや顧客開発モデルの解説コラムは世の中にたくさんありますが、両者を紐づけて考えたり、一個人目線でわかりやすく説明したものはあまり多くありません。
そういう意味では、本記事は、既存市場のニッチ戦略を市場タイプとしているのかもしれません。あとはこの記事を読まれている「アーリー・アダプター」の読者の皆様からのフィードバックを受けて改善できれば嬉しく思います。
コメントなどはぜひお気軽にお寄せください。最後までありがとうございました。